Jリーガーから29歳で転身。北井佑季選手インタビュー「遅すぎるということはない」
競輪は自分のことを深く考える必要のある競技
Q:普段は自分のホームで練習し、全国に試合やレースに行く。そういう生活スタイルはサッカーも競輪も似てるのかなと思いますが、どうでしょう。
そうだと思います。ただレースから逆算して練習や準備をする、その内容をすべて自分で決めなければいけないというのが競輪で、ある程度決めてもらえるのがサッカーです。移動のチケットをすべて自分で手配するのは、最初のころ苦労しました。
とはいえ、サッカー選手として生活してきた人は、これまでの経験を当てはめていけばいいだけ。学生だった選手はそのようなことを実地で経験していないので、そこはアドバンテージだったと思います。
競輪は、サッカーと比べてより自分のことを深く考える必要のある競技だと思います。サッカーはチームに助けてもらえることもありますが、競輪はライン戦もあるけど、結局は個人競技。助けてもらえる割合が少ない分、自分自身をマネジメントしていく必要があります。
必要なものは覚悟
Q:サッカー選手からのキャリアチェンジとして、競輪はお勧めできますか?
お勧めできます。だけど覚悟が必要です。
これはこれから競輪選手になろうとする人に言うべきことではないかもしれませんが、競輪選手って、A級の下の方でもそれなりに生活することができる。楽ということは決してないですが、それなりの練習で、それなりの生活で、それなりの満足ができる職業です。「仕事」ですから、そこは個々の価値観で良いと思う。
だけど、僕はそういう感じではない。せっかくなら高いレベルで良い賞金をもらいたい。そう思うのなら相応の覚悟が必要ですし、サッカーに比べると怪我のリスクや、1回怪我をした時の度合いも大きい。セルフマネジメントができることもそうですが、そういった部分にも覚悟が必要だと思います。
そしてどの試験を受けるにしても、合格するためにはまず練習が必要です。僕は幸いなことに1回で受かりましたが、それでも養成所在所期間も含めて丸2年間無収入となりました。浪人したら収入のない期間がさらに伸びます。僕は1回と決めていましたが「何回受けるのか」という部分の覚悟も必要になりますね。
「上」を目指す原動力
Q:北井選手がより上を目指すのは、何が一番の理由ですか?
競輪選手になろうと思った当初は「仕事」としてやろうと考えていました。
でもいざ始めてみたら、「仕事」より「魅力」が上回りました。どのような走りをすればお客さんに喜んでもらえるのか、応援してもらえるのか。より高いレベルで期待に応える走りをしたいし、自分自身も競輪が好きだから、もっと高いレベルに行きたいと思うようになりました。
そういう想いが出てきたのは、養成所に入った頃です。滝澤先生のT教場で「先行日本一」と言われた滝澤先生の指導を受け、1着を獲ることはもちろん大事だけど、そういう素晴らしい走り方もあるんだと学びました。
とはいえ、最初の時点でも「やるからには限界までやろう」と思っていましたよ。サッカーでも本当に思い残すことのないところまでやって、やり切ったという思いがありました。競輪でも「せっかく競輪選手になるんなら、そう思えるところまでやろう」と決めていました。
1日12時間の練習も「当たり前のこと」
Q:北井選手のことを「努力の人」とか「日本一きつい練習をしている」と評する声を聞きますが、具体的にどのような練習をしているんでしょうか?
時間も長いですし、強度も人よりは高いと思います。でもそれは僕にとっては当たり前で、普通の練習。
大まかに言うと午前中にバンクでバイク誘導での練習をやり、午後に補助的な乗り込みや室内でパワーマックスを使った練習、ウェイトトレーニングなどをやることが多いです。合計で……間違いなく12時間はやってますね。とはいえインターバルを取ったりするので、ずっとやっているわけではないですよ。
僕は先行にこだわっています。風を切るのは力を使いますし、9車立てで先行で逃げ切るためには9人の中で一番練習している必要がある。そのためには練習の量が増えて、強度が増えるのも当たり前のことです。3年間はがむしゃらにやろうと思っていて、その結果でもあります。