史上最多6回の賞金王に輝いた功績をもつ名誉教官の中野浩一氏と、2025年3月まで15年間にわたって日本競輪選手養成所の所長を務めた瀧澤正光アドバイザー、そして神山雄一郎現所長。

数々の記録を打ち立て、現在は育成の最前線に立つ“競輪界を代表するレジェンド”のお三方に、日本競輪選手養成所のあり方や、今後の競輪界に求める人材を語り合っていただきました。

前後編でお届けするインタビューの後編です。

考える力と、まず動く力

神山:今の時代、ネットで調べたりすればいろいろな情報を簡単に集めることができます。そこである程度の知識が入っている分、練習のメリットやデメリットを知りたがる候補生が増えてきたように思います。「もっと乗り込んだ方がいいよ」と話したとしても、「乗り込みにはどんなメリットがあるんですか?」「どのくらいの効果がある練習なのですか?」と聞いてくるような。候補生の練習や学びのスタンスは、良くも悪くも変わってきたなと感じています。

瀧澤:確かに答えを知りたがったり、練習の結果を想定したりしながら取り組む候補生は多い印象ですね。僕たちが候補生の頃は、手探りの状態でやっていることのほうが多かった。その意味では、今の候補生は慎重すぎるような印象も受けます。

中野:確かに情報がいっぱい入ってくるけど、その情報が本当に正しいかどうかはわからない。指導する立場としては、導いてあげる必要もあるとは思いますね。

瀧澤:考えるのも大事ですが、「とにかくやってみる」選手の方が個人的には伸びるとは思いますね。

神山:一方で、大学や社会人を経験してから入る選手も増えて年齢層は上がっているので、インタビューなどの受け答えは大人びていますよね。ちゃんとしているな、という印象があります。

レベル差の中で、全体を底上げする

瀧澤:養成所には元々自転車競技に取り組んできた技能試験の候補生と、経験のない適性試験の候補生がいて、当然レベルに差があります。私の場合、中間くらいの負荷を狙って指導していました。そうすると、上の子は少し物足りない部分を補おうとして自分でプラスアルファの自主練に取り組むし、下の子は少しでも追いつこうと努力するんです。

神山:入ってきた当初は、候補生によってすごく差がありますからね。

瀧澤:今後の競輪界のために、ある程度の人数を立派な競輪選手として育てなければいけないという使命が養成所にはあります。なので難しい部分もありますが、全体のレベルを見て指導する形をとっていましたね。

神山:しかし、卒業が近づいた今頃になると、技能組と適性組の差はかなりなくなってきているように思います。特に今期生は、女子の適性組が強い。男子でも、入所当初は周囲に追いつくので精一杯だったような候補生も、かなり戦えるようになりました。先生方が教場の中で、個々に合わせてプラスアルファのトレーニングを行うことで足並みが揃ってきたのかなと思います。

競輪界が、あなたに求めていること

中野:今は他競技から転向してきた人、自転車競技に取り組んだことのない人、社会人経験のある人、いろいろな経歴をもった選手が活躍しています。そのため、この世界に入ってから、“競輪選手として強くなって、今後の競輪を背負っていくんだ”という気持ちを持っていれば、どんなバックボーンをもった人でも挑戦してもらえればと思いますね。

神山:自転車ってほとんどの人が乗れるものだと思うんです。誰でも挑戦できる中で、中野さんもおっしゃるように競輪界を背負って立つ気持ちがある人に来てもらえれば、僕も嬉しいですね。

瀧澤:私が求めているのは“人生を変えたい人”。これに尽きます。私は、この世界に入っていなければ生涯会うことのできないような人にお会いできましたし、乗れないような車にも乗れました。本当に人生を変えられたので、ぜひそんな思いを持つ人に来てほしいです。

中野:やっぱり競輪界を志す理由には、お金を稼げるという部分も大きいと思います。デビューして強くなるためには、一番になってお金を稼ぎたいんだ、と常に思ってもらった方がいいと思いますね。そういう考えであれば、所長やアドバイザー、先生方からいろいろなことを吸収して自分の強みにするために、よりトレーニングにも真摯に取り組めるはず。そういう人が来てくれれば、もっと競輪界は盛り上がるのではないかなと感じますね。

瀧澤:私が所長時代によく候補生に言っていたのは、「誰にでもできることを、誰にもできないくらい努力しなさい」ということ。誰にもできないことをやるわけではないから、やり続けようと。人の言葉の引用ですが、それができる人は必ず大成すると私は信じてやってきました。そういう人がどんどん来てくれると良いかなと思っています。

“世界一で、日本一”になる選手を

神山:養成所の所長になって改めて思うのは、競技の世界で金メダルを取れるような選手が、日本の競輪でも一番になってくれる形が一番理想だということ。育てたいというとおこがましいですが、そんな選手を輩出できればと思っています。

中野:神山くんの言うとおり、世界で一番でも日本で勝てなければ見えないものもあるし、日本でトップになったからといって世界で勝てるわけでもない。それは実際に僕が証明したと思っています。日本でも世界でも一番になれれば、世の中も注目してくれますし、競輪の見られ方も変わってくる。そういう選手が出てくるのが一番ですよね。

瀧澤:私の場合、自分が所長を務めていた際には先行に強いこだわりを持って指導に当たっていました。先行選手がいないとレースがはじまらない。強い先行選手を一人でも多く輩出できるよう、これからも競輪界をサポートできればと思っています。

中野:2025年は佐藤水菜選手が世界選手権のケイリンで2連覇して、競輪でもグランプリスラムを達成しました。男子の方でも世界一で日本一になる選手が出てくるように盛り上げていきたいですね。

神山:2026年の冬には、東洋一を誇れるような新施設の誕生を予定しています。完成すればトレーニング時間の短縮や効率化ができますし、リカバリー施設も併設する計画です。そういった環境の面からも今後、ワンランク上の選手を育てられるんじゃないかなと思っています。

瀧澤:練習環境を高めることは、自分が所長時代から願っていた部分でもあります。すごく象徴的な施設ができる予定なので、ぜひやる気のある若者たちが集まって頑張ってほしいなと思いますね。

中野:良い設備が揃っていてもうまく使わなきゃ意味がない。候補生たちがより効果的にトレーニングできるよう、神山くんたちにも頑張ってもらいたいと思っています。

神山:素晴らしい施設になる予定なので、本当に楽しみです。

瀧澤:もしかしたら、神山くんが候補生よりも多く使っている可能性もありえますよね(笑)。

神山:「待って、自分が最初に使うから」ってね(笑)。可能性は否定しませんが、より候補生を強くできるよう頑張ります!

<鼎談プロフィール>

◾️中野浩一
福岡・35期として1975年に競輪デビュー。世界選手権でスプリント10連覇を達成、競輪では史上最多6回の賞金王に輝いた経歴を持ち、「ミスター競輪」「世界の中野」など数々の異名を持つ。1980年には日本のプロスポーツ選手として初めて年間獲得賞金が1億円を突破し、競輪生涯成績は1236走中666勝。現在は競輪・自転車競技などの解説に加え、公益財団法人JKA顧問/JCF副会長/JCF選手強化委員長を務める

◾️瀧澤正光
千葉・43期として1979年にデビューすると、1984年に「日本選手権競輪」を制してG1初タイトルを獲得。以降、特別競輪での優勝を重ね、1990年にはグランドスラムを達成。中野浩一や井上茂徳らと共に競輪黄金世代の一翼を担った。2010年に「競輪学校(現・日本競輪選手養成所)」の第23代校長に就任。定年までの15年間トップを務め、現在も「養成所アドバイザー」として候補生の指導に当たっている

◾️神山雄一郎
高校より自転車競技に取り組み、競輪学校を在校成績1位で卒業すると、栃木・61期として1988年に競輪デビュー。翌年には世界選手権スプリントで銀メダルを獲得するなど競技でも活躍した。1999年に史上3人目のグランドスラムを達成し、G1優勝は歴代最多の16勝。35年9ヶ月にわたって S級に在籍し、通算獲得賞金も歴代1位の29億円以上。2024年に現役を引退。2025年4月より日本競輪選手養成所の所長を務める