冬季移動ができるのはむしろメリット?小堀敢太選手選手インタビュー 後編
積雪の多い地域に所属する選手の中には、冬の間、所属地区を離れて別の地域で練習を行う「冬季移動」という取り組みを行うケースがあります。厳しい気候条件の中でも十分なトレーニング環境を確保するための、競輪選手ならではの選択肢のひとつです。
北海道所属で2024年にデビューした小堀敢太選手(125期)も、そうした冬季移動を行う選手の一人。冬季は大阪・岸和田競輪場を拠点に、日々トレーニングに励んでいます。
“冬季移動”という取り組みにスポットをあてた前後編インタビュー。後編では、冬季移動に至るまでや岸和田での生活について話を伺いました。
▼インタビュー前編はこちら
きっかけは同期の声

岸和田に誘ってくれた同期の中嶋響(左)と小堀敢太
Q:小堀選手は、デビュー1年目から冬季移動で岸和田競輪場を訪れ、今年も同じく岸和田に来ています。そもそも北海道や北日本の選手の多くは冬季移動するものなのですか?
冬季移動しない選手も多いですし、いつからいつまでという時期も含め、人によって全然違いますね。今、函館に所属している選手で冬季移動をしているのは、僕を含めて4-5人だと思います。競輪場に行けばローラーにも乗れますし、家にワットバイクなどトレーニング器具を置いている方も多いので、北海道に残る選手は多いです。たとえば、結婚して家を買われた選手だと、冬季移動するとダブルコストになってしまいますからね。独身の方が冬季移動がしやすい、というのもあると思います。
Q:それでも、冬季移動しようと思ったのはどうしてでしょうか?
コストの面では、僕は今は実家で暮らしているのも大きかったです。それから、冬もバンクで練習できた方が競走得点も維持できるし、函館でできない練習もできる。そういった環境は魅力的だ、ということは師匠(明田春喜/北海道・89期)とも話していたんです。
Q:移動先はどのように決まるのでしょうか?
いろいろなパターンがあるとは思います。僕も周りの選手たちがどこに行くかを聞いて、兄弟子の八嶋稔真(神奈川・113期)選手が行くという平塚のほか、ガールズケイリンの伊藤のぞみ(北海道・116期)選手と佐藤乃愛(北海道・126期)選手が行くいわき平などが候補に上がっていました。
そんななかで、同期の中嶋響(大阪・125期)選手が岸和田に来てくださいと言ってくれたので、最終的には岸和田に決めました。

Q:希望をすればどこの競輪場にも冬季移動できるのですか?
北海道支部に「いつからいつまでの期間で、この競輪場に冬季移動したいです」ということを連絡すれば、希望の競輪場に行くことができます。事務局の方が書類を作ってくれるので、それで申請するという流れです。
Q:明日から行こうと思って行くという感じではなく、事前に申請されるのですね。
でも、冬季移動以外にも、短期の合宿を所属とは別の競輪場で行なうこともあるのですが、それも支部を通して連絡すればすぐに合宿に行くことができます。
良くも悪くも全ての環境が変わる

Q:初めての冬季移動は昨年でしたが、実際に来て困った部分はありましたか?
家選びには失敗したなと思いましたね。先輩からマンスリーマンションを借りていると聞いていたのでそうするつもりだったのですが、大阪の場合だと60〜70万円くらいかかってしまう。結局、賃貸でリーズナブルな部屋を借りたのですが、環境があまり良くなくて……。
Q:知らない土地で住む場所を探すのは難しいですよね。住宅に関しては、支部から紹介してもらえることもあるのですか?
僕の場合は、物件を探すところから自分でやりました。木村弘(青森・100期)選手や石田宏樹(青森・91期)選手、阿部力也(宮城・100期)選手も自分で探していたので、自分で探すのが普通だと思います。
Q:ちなみに引越しはどのように?
一部は送って、送れないものは車に積んで移動したりしました。ざっくり100万円ほどかかりましたが、1場所で取り返せる金額なのでそこまで負担には思わなかったです。
僕の場合は函館にも家を借りているので、家が3つある状態です(笑)。
Q:函館からは小堀さん1人が岸和田に移動されたと思うのですが、同じ支部の選手と一緒に冬季移動したいとは思わなかったですか?
その方が安心だと僕も思います。師匠たちの代は、同支部の4、5人で小田原や取手に行っていたと聞いています。でも僕の場合は、大阪に同期が4人いたので比較的来やすかったです。

Q:北海道との生活の違いで苦労した部分は?
食事に関する部分はちょっとネックでしたね。
札幌で練習する時は実家生活なので、家に帰ったらご飯を用意してもらえていた。疲れて帰ってきた時に、ここから作るのかと思ったり、食べてから帰ってくればよかったと思ったり。
あとは、やっぱり北海道は海鮮が豊富にあるので(笑)。できれば肉より魚からタンパク質を取りたいのですが……。
Q:冬季移動となると家族がいる選手でも基本は1人で別の地に移られるのでしょうか?
そうですね。木村弘選手も阿部力也選手も単独で来ています。東日本の開催に出た後とかには、一時帰宅しているとおっしゃっていました。一緒に着いてきてくれる人がいればいいですよね。
岸和田だったから強くなれた

Q:実際に岸和田で練習してみて、どんなことを感じましたか?
練習の1本1本が濃いです。今日競輪場にいる8割くらいの選手がS級で、S班の選手もいますし、練習の質が高いなと感じます。1人1人の向き合う姿勢やモチベーションの高さは、すごく感じました。
北海道は自力の選手がまだ少ないですが、岸和田は多いのも良い刺激になります。
Q:2025年の2月にはA級2班に、7月にはS級2班に特昇も果たしました。その背景には岸和田で得たものも大きかったのでしょうか?
はい。冬季移動後も、練習したことを函館に持ち帰って、継続的に取り組むことができました。岸和田でやっていたことをそのままやるのではなく、函館に合わせてアレンジできたのも良かったと思います。
Q:練習を見ていると、小堀選手はこの場所に馴染んでいるような印象を受けました。ほかの選手からのお話を聞いても、愛される小堀さんのキャラクターも重要だった気がします。

酒井拳蔵(大阪・109期)選手「来た時から小堀はすごいって言われていました。最初から馴れ馴れしいって(笑)。人懐っこくて入って行くのが上手やなって思います」

中釜章成(大阪・113期)選手「みんなでご飯に行くこともありますが、小堀はキャラが濃すぎますね(笑)。大阪にはいない脚質なんで、良い練習になっています」
皆さんに良くしてもらえているおかげです。最初は同期の中嶋響選手と練習していたんですけど、メインは谷和也(大阪・115期)選手さんにお世話になるようになって、合間合間で中釜章成選手や古性優作選手にも混ぜてもらっています。
支部によっては、同一の支部内でも練習するチームが決まっているケースもあると聞きますが、岸和田はみんなで練習しましょうという雰囲気で、函館とも似ている気がします。和気藹々としていても、練習になるとパキッと切り替わるのもすごく良いなと思います。

Q:岸和田の先輩方から言われた言葉で印象に残っている言葉はありますか?
じつはつい先ほど、古性選手に声をかけてもらいました。本当は休みの日なはずなんですが朝のアップから練習を見てくださって、「お前乗り方変わったな」と言われたんです。その後、ずっと乗り方を見てもらって。「去年の方が強かった」とも言われて少しショックでしたが、冬季移動で来ている僕のこともちゃんと見てくれているんだなとすごくありがたかったです。
Q:先ほど古性選手にも少し話を伺ったところ、「冬季移動で来てくれる選手のいいところを盗めば僕らも強くなれるし、お互いにいい刺激になると思う」と教えてくれました。とても良い関係が築けていそうですね。
本当にありがたいです。地区ごとに練習方法ややり方はさまざまですが、大阪や西日本の情報はなかなか北海道まで届いてこないんです。大阪の良さを持ち帰れるのだとしたら、北海道にとってもプラスになると思うんですよね。
冬季移動できるのはメリット

Q:素朴な疑問として、移籍しようという気持ちにはならないのでしょうか?
個人的には、その考えはありません。地元にはお世話になっている方も多いですし、引き続き北海道所属としてやっていきたいと思っています。今から、イチから近畿の競輪を学んでいくのも大変ですしね。
Q:大阪には大阪の、北海道には北海道の戦い方があるということですね。
今の北日本全体を見ると、先輩には新山響平(青森・107期)選手や高橋晋也(福島・115)選手がいて、同期の中石湊選手や山崎歩夢(福島・125期)選手も自力としてやっていますが、他の地域と比べて自力の選手が少ないと思います。やっぱりラインで戦うのが競輪だと思っていますし、自分は北日本の自力選手として頑張るべきだと思っています。
Q:ここまで話を伺っていると、北海道ならではの冬季の練習の制限を、むしろ良い材料としているように感じます。
そうですね。仮に元々岸和田にいたとしたら1年中外で練習できるので、冬季移動の必要はないですから(笑)。北海道にいることで、冬季は別の環境で練習させてもらえるということは、メリットが大きいのかなと思っています。