毎日厳しい訓練を行う候補生たちにとって、食事は「リラックス」と「体づくり」の両面で非常に重要なもの。
今回は、候補生に寄り添ったメニューを考え提供してくれているだけでなく、栄養学の授業も行うなど、候補生にとってなくてはならない存在である、エームサービス株式会社の管理栄養士・奥脇彩加さんにお話を伺いました。

一般の方の2倍!候補生たちの食事量

Q:普段、どのような仕事をされているのでしょうか?

メインとなるのは、毎日のメニュー作成と1日3食の食事の提供です。15名ほどのチームで、夏季・年末の帰省時以外は毎日、候補生たちに食事を提供しています。
そのほかにも、年8回のスポーツ栄養学の講義やヘモグロビン測定、野菜摂取量を計測するベジチェックなどを行い、候補生をサポートしています。

「“必要な栄養の確保”は最低限のこと」候補生を支える管理栄養士・奥脇彩加さんにインタビュー
「“必要な栄養の確保”は最低限のこと」候補生を支える管理栄養士・奥脇彩加さんにインタビュー

ヘモグロビン測定の様子

管理栄養士である私は、そのなかでも主にメニュー作成と、栄養学の講義を担当しています。

Q:候補生たちは1日にどのくらいの量を食べているのでしょうか?

エネルギー量でいうと一般の方の2倍、男子候補生に関しては1日約4500キロカロリー、女子候補生は1日約3200キロカロリーが目安となります。
タンパク質量も、一般の方は体重あたり1gが目安とされていますが、養成所の食事ではその倍の体重あたり2gとしています。

「“必要な栄養の確保”は最低限のこと」候補生を支える管理栄養士・奥脇彩加さんにインタビュー

必要な栄養を確保することは最低限

Q:食事の提供において、競輪選手の養成所ならではのポイントはありますか?

やはり運動強度が高いので、エネルギーを確保してもらうために、メインのおかずはご飯が食べやすいものであることを考えています。
それから、昼食は少し軽めにしていて、1日の必要量のうち、朝3.5、昼2.5、夜4という割合で提供しています。

午前中から激しいトレーニングを行うとどうしても食欲が出ない場合もありますし、午後からもたくさん動く必要がある。訓練の内容にあわせつつ、少しでも食べやすいように、お昼は麺類が中心です。

トレーニングを終えた後の夕食は、体づくりのためのバランスの良い食事を。お肉メインのものと、ミニ主菜としてお魚または大豆製品、副菜2品、汁もの、果物、乳製品という形式が基本となります。お米は候補生たちが自分でよそうのですが、計量器を置いて、自分でコントロールできるようにしています。

「“必要な栄養の確保”は最低限のこと」候補生を支える管理栄養士・奥脇彩加さんにインタビュー

この日の夕食メニュー。約1,800キロカロリーなり!

Q:栄養量や提供の仕方に、工夫が必要となるんですね。

はい。ただ、必要なエネルギーや栄養を確保するというのは最低限のこと。「どうしたら楽しく、美味しく食べてもらえるか」をいちばんに考えています。

養成所での生活中、候補生たちは基本的に弊社が提供した食事しか食べることができません。外に出る機会が少ない生活でもあるので、クリスマスや十五夜、バレンタインなどのイベントごとを大切にしたり、季節の食材を提供したりすることで、楽しんでもらえたらなと考えています。

過去にバレンタインイベントを実施した時は、「ハッピーバレンタイン!」と言いながらチョコケーキを渡していたのですが、「今日ってバレンタインなの?」と言っている候補生もいましたね(笑)。

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バレンタインにはチョコケーキが!オレンジの飾り切りもポイント

カレーのときは20kg以上のお米が

Q:定番メニューのようなものはありますか?

記録会やトーナメントが終わった日の夕食では、カレーを出すことが多いです。

Q:それは古くから伝わる伝統のようなものでしょうか?

はい。私が養成所に来る前から記録会やトーナメントが終わった日の夕食はカレーを提供していました。ご飯の量もカレーの時はかなり多く準備する必要があって、夜だけで14升(21kg)を炊いています。
カレー専用の大きなお皿を用意しているのですが、大量のご飯を盛ってくるので、こちらも身構えてたくさんルーをかけています(笑)。

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カレー用の特別なお皿

Q:“養成所カレー”のようなレシピがある?

隠し味や秘伝のレシピがあるというわけではないのですが、ポーク、ビーフ、チキン、牛すじ、キーマなどさまざまです。共通しているのは、あまり辛くしすぎないということ。辛いのが苦手な候補生も毎年一定数いますからね。とにかくみんなに美味しく食べてもらうことが第一です。

カレーの時は400バンクに匂いが届くみたいで、「テンションがあがりました!」という声ももらいます。

毎年変化する候補生の好みに合わせて

「栄養の担保は最低限のこと」候補生を支える栄養士・奥脇彩加さんにインタビュー

管理栄養士や候補生がコメントを記入しやり取りができる「検食簿」

Q:候補生たちとお話する機会も多い?

特に夕食の時は、提供する時にいろいろと話をしています。私から「好きな味噌汁の具はある?」と聞くこともありますし、候補生から「⚪︎⚪︎が食べたいです!」と要望をもらうことも。
そういう要望にはなるべく応えてあげたいので、調理スタッフと相談しながら、どうしたら実現可能かを考えてメニューづくりをしています。今年の候補生たちはなにが好きかな?と考えながらメニューをつくるのは楽しいですね。

Q:養成所では毎年候補生が入れ替わるので、その年によっても傾向が変わったりするのでしょうか?

年によってぜんぜん違いますね。わかりやすいのは、お昼に麺類に加えて提供しているおにぎりです。
いろいろな具のおにぎりを作って、それを各自で取ってもらうスタイルなのですが、人気の具が違うのでおもしろいですね。

127・128回生では「鮭」と「ワカメ」のおにぎりが人気です。昨年は「鶏めし」が人気でした。候補生たちの反応を見ながら、人気のなさそうな具は入れ替えるなど、試行錯誤しています。

Q:たくさん要望をあげてくれる“グルメ”な候補生もいたりする?

今回生では尾野翔一候補生千葉捺美候補生がよく要望をくれたり、あとは汁物に関しては小西涼太候補生がいろいろ反応をくれます。小西候補生はこれまでアオサの味噌汁が好みだったようですが、先日出した玉ねぎとじゃがいもの味噌汁は「アオサ超えでした」と言ってくれました(笑)。
デザートパーティのようなイベントをしたときは、女子候補生、とくに髙﨑千賀候補生が「最高です!」と喜んでくれたりして。毎年、いいキャラの候補生がたくさんいるので楽しいです(笑)。

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卒業後は自分で食事を整えられるように

Q:スポーツ栄養学の講義はどういうことを教えているのですか?

年8回のなかで、養成所における食事の基本からはじまり、ウェイトコントロールの方法やサプリメントについての講義などを実施しています。卒業に向けて、少しずつ「自分で食事を整えるにはどうするべきか」が中心となります。もちろんゴールは、卒業後、食事の自己管理ができるようになってもらうことです。

「“必要な栄養の確保”は最低限のこと」候補生を支える管理栄養士・奥脇彩加さんにインタビュー

Q:「食」と「強さ」には関係がありますか?

やはり日頃から食事への意識が高い候補生は強い、という傾向はあると思います。
どんな時でもたくさん食べることができる、というのも重要ですが、たとえば記録会の前日など、緊張で食べられない候補生もいます。そんなとき、どうやって補食で摂取するか、などを考えて実行している候補生はやっぱり強いと思いますね。

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「補食」も重要?

Q:食事についての相談を個別で受けることもある?

はい。特に多いのは増量・減量などのウェイトコントロールですね。基本的には私たちが提供したものを食べるという環境ではあるので難しい部分もありますが、一緒に体重を追いながら、ご飯の量や補食の取り方をアドバイスしたり、なにかできることはないかと考えています。

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成長の過程が見えるのがいちばんの喜び

Q:養成所の管理栄養士ならではの喜びはありますか?

キッチンがオープンになっているので、楽しそうに食べている姿を見られることが個人的な楽しみです。

それから、入所から卒業までの10ヶ月を見届けられるというのはやはり得難い経験ですよね。食事のときに「ゴールデンキャップ取りました!」とか報告してくれる候補生もいて、成長の過程を一緒に追えるのは感慨深いです。卒業してからも、陰ながら応援しています。

「“必要な栄養の確保”は最低限のこと」候補生を支える管理栄養士・奥脇彩加さんにインタビュー

Q:卒業してから食事へのアドバイスを求めにくる選手もいる?

いまのところはないですね。私の授業が身についているのかなと信じています(笑)。

Q:今後提供する予定の、とっておきのメニューはありますか?

11月からお刺身を提供できるようになります。候補生からの要望も多いので、早く出してあげたいですね。まずは、手巻き寿司からスタートしようと思っています。
あとハロウィンは、カボチャかオバケに型抜きしたチーズinハンバーグを提供しようと思っているんです。実際に調理してもらうスタッフには申し訳ない部分もありますが、「私もたくさん手伝います!」と了承をもらっています(笑)。

「“必要な栄養の確保”は最低限のこと」候補生を支える管理栄養士・奥脇彩加さんにインタビュー