「自分が実力で優位に立てることは、一生ない」古性優作選手インタビュー 後編
100期の卒業生として、2011年にデビューした古性優作選手。2024年11月までにG1レースを通算8勝、選ばれた9人しか出場できない「KEIRINグランプリ」にも4年連続で出場を決めるなど、競輪界のトップオブトップとして活躍しています。
BMX選手としてジュニア時代から活躍していた古性選手は、どのように競輪選手になったのか。そして、トップ選手でいるための競輪との向かい方とは。
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デビュー戦で完全優勝も「やばい」
Q:卒業後のデビュー戦では、完全優勝(出場全レースで1位)を果たす華々しい結果となりました。
自分の実力ではなく、たまたま勝ってしまった、という感じでした。優勝したときに、「やばい。これは今後苦戦するな」と思ったことを覚えています。
優勝はできたけれど、ほかの選手との力の差は感じました。BMXでの経験があったからこそ、うまいことやれてしまった、というか。結果を残してしまったけど、「ちゃんと」結果を残せているわけではないことがわかっていた。小さい頃から結果を求められ続けたことで、勝負の世界は簡単なものじゃない、というのは身に染みてわかっていたので、苦戦するだろうなと思いましたね。
Q:「うまくいった、よかった」となってもおかしくない状況ですよね。
まったく思わなかったですね。逆に負けた方がよかったとすら思いました。実際、少しずつ成績は悪くなっていきました。
競輪を突き詰めていこう
Q:もともとBMXのためにスタートさせた競輪選手としてのキャリアでしたが、BMXでの活動は?
デビューした時には体型も変わってしまっていたので、競輪選手1本で行こうと決めました。
Q:体型が変わったというのは?
BMXでいうと、体操選手のような、できるだけ体重を少なめにしつつパワーも出せるような体が求められる。一方、競輪は当たりもあるのである程度重さが必要になりますし、1年間ずっと走り続ける競技ならではの強さが必要。そのなかで、体が大きくなっていたんです。
BMXは最初の7秒間で先頭にでられるかが重要ですが、競輪は座ってから40秒とかをどうもがけるかというのが必要。求められる部分も全く違う。BMXを続けるのは難しいな、と感じました。
Q:未練はなかった?
なかったですね。競輪に向き合うようになって、ペダリングの深さや乗り方、カント(傾斜)の使い方だったりをあらためて考えてると、シンプルなのにものすごく奥が深い競技なんだなと、そのおもしろさに気づいた。すっぱり切り替えて、競輪というものを突き詰めていこうと思えました。
なんで1着を取れたのかを説明できるようなレースを
Q:以後、さまざまな苦労があったかと思いますが、2015年にS級にあがって、2021年に初G1を制し、いまは競輪界を代表する選手のひとり。ここまでは順調にこられたイメージですか?
一歩ずつ、しっかりと土台を作りながら、着実にあがってくることができたな、という感じがします。
S級に上がる時、自分は「まだ上がりたくない」と思っていたんです。ほとんどの選手は、「早くS級に上がりたい」と考えていると思いますが、まだ下積みが欲しかったというか、確実に地盤を固めてから上がっていきたかった。
Q:地盤というのは、具体的にどういうものなんでしょうか?
なんで強くなったのか、なんで1着を取れたのかを説明できるようなレースを増やしていく、ということを考えていました。
次もこうすれば1着を取れる、ということを説明できる状態を作ることを心がけたというか。
それができないと、スランプになってしまうと思うんです。
強くなっていく過程においては、説明できるようにすることが重要。根拠を、なんでそうなるのかということを練習で突き詰めていく。
一方で、今も脚力的に強い選手がいっぱい出てきているなかで、根拠は特にないながらも「負けへんやろ」という部分も持ち合わせているんですよね。二重人格みたいですけど(笑)。
実際にレースが始まる時には、根拠なんてなくていいんです。「おれは勝てる」という部分も持っておきたい。
最大瞬間風速で強い選手って山ほど出てくるので、実力的に僕が優位に立てるということは、これから一生ないと思っています。その中で、僕は安定した強さを見せなきゃいけない。そういう環境のなかでは、根拠のない自信も100パーセントもっておかないとダメだと思います。
ビジョンを明確に持ち、信念をもって実行できる人が向いている
Q:古性選手は「ストイックである」という言われ方もよくされますが、お話を聞いていると思考の部分でそれを強く感じます。ご自身ではどう感じていますか?
もしかしたら、考える角度は人とちょっと違うかもしれないですね。しっかり考えている選手は、ぜったいに強くなるとは思います。
Q:他のスポーツからの転向は、有利に働くと思いますか?
競輪選手は40歳くらいでピークを迎えることも多い。30歳で選手になっても、10年あるわけです。それこそ滝澤正光先生も、ほかのスポーツからきて超一流になっていますしね。
競輪って、自分の努力次第でどこまでもいけてしまうものだと思います。突き詰めてやってきたことが、ダイレクトにはねかえってきてくれる。そういう意味でも、他のスポーツをやっていた人にとっては、すごくいい職業だと思います。
一方で、トップオブトップになるための条件としては、他のスポーツで活躍していた、というだけでは少し弱い。強くなりたいのはみんな同じなので、どう強くなりたいのかを明確にすることが重要ですね。
Q:考えて、突き詰めて行動をできる人が向いている?
そうですね。ビジョンを明確に持って、それに向けて信念をもって実行できる人が向いていると思います。
競輪で言えば、何歳までは先行を磨く、その先の何年間でこういうことをやる、というビジョンを持ち、それに対してしっかりと行動ができること。
あとは、真面目であることも重要だと思いますが、真面目すぎないバランスが大事です。
ある程度、「遊び」の感覚を持っていないといけない。「こうしたらこうなるんじゃない?」っていう子供のような感覚も大事だと思いますね。いろいろな部分で、真面目にアホみたいなことをできる人がいいと思います。