「強い覚悟があれば、誰でも」競輪選手育成プロジェクト『GTR(群馬トレーニングレーサーズ)』が掲げる想い

競輪選手を目指したい。
そう思ったとしても、まずなにをすればいいのかわからない、という方も多いはず。全国には、そんな方をサポートするための団体が複数存在します。
そのひとつが、群馬発の競輪選手育成プロジェクト「GTR(群馬トレーニングレーサーズ)」。
強豪選手を多数輩出している群馬県ですが、高校の自転車部の廃部などにより、近年は若手の競輪選手志望者が減少しているそう。
GTRは、そんな課題を打開するために、前橋市と日本競輪選手会群馬支部、前橋競輪を運営する日本トーター株式会社が手を取り合って2021年に発足しました。
競輪選手を目指そうと思っても、バンク練習もままならない
主に指導を務めるのは青木勇(あおき いさみ)氏。自身もかつて競輪選手(40期)としてキャリアを築き、その経験を活かしてトレーニングプログラムを作成、競輪養成所合格という大きな目標に向け、訓練生とともに日々挑戦を続けています。

青木さん「訓練は月にだいたい19日間行っています。午前は街道練習、午後はグリーンドーム前橋(前橋競輪場)でのバンク練習が基本スタイルです。バンク練習では、バイク誘導による高強度のトレーニングも取り入れています。
地域にもよりますが、バンクで練習するには責任者を設ける必要がある場合もあり、本格的にトレーニングをすることも難しい。GTRがそれを“肩代わり”することで、グリーンドーム前橋を使用することができる、というのは大きいと思います」

キャリアよりも、覚悟を重要視
現在の訓練生は、男子9名・女子1名。自転車競技経験者もいれば、サッカーや野球といった他競技からの転向者もいます。
青木さん「現在所属している訓練生は、本格的な自転車経験はまったくなかったという子がほとんどです。最初は傾斜のついたバンクで自転車に乗ることも苦労しますが、早い子なら3日で乗れるようになります。まずは、ペダルのクリップバンドに足を入れられるようにするのが私の仕事ですね(笑)。やる気さえあれば、ゼロからでも成長できる環境です」

GTRへの参加にあたっては、HPの応募フォームから申し込み、面談を経て合否が決まります。
面談で問うのは、キャリアやポテンシャルよりも、その熱意と覚悟だといいます。
青木さん「基本的に経歴は問いませんが、働きながらでは難しいという現実もあるので、仕事を辞めて専念してもらうことを求めています。厳しい条件ではありますが、プロを目指すためにはそれくらいの覚悟が必要だと考えています。逆にいえば、“人生を変えたい”という思いと覚悟があれば、誰でも挑戦可能です

GTRとしても、少しでも参加者の助けとなるべく、参加費は無料であり、練習ウェアや最低限の消耗品は用意してもらっています。また、未経験で面談に来られた方には、バンクで試乗をしてもらうなどの施策も実施していて、必要であれば自転車を貸し出して訓練を受けることも可能です」
去年8月にGTRに入ったという篠原颯汰さんも、未経験からスタートした一人。
篠原さん「大学2年まで野球をやっていましたが、大学を中退してここにきました。最初はバンクも怖くてビビりながらでしたが(笑)、少しずつ周りに追いつけるようになってきました。
しっかり練習を積むことができ、指導してもらえるこの環境は本当に助かっています。練習がない日も、GTRの仲間たちと街道練習をしています」

右:篠原颯汰さん
師匠を見つける難しさ
競輪選手を目指すにあたっては、“師匠”の指導を受けるのが一般的ですが、師匠を見つけるのは容易ではありません。
青木さん「いざ競輪選手を目指そうと思っても、『どうやって師匠を探せばいいのか』『どの選手に師事すればいいのか』が分からない方も多いはず。GTRは、プロの練習の拠点でもあるグリーンドーム前橋で活動するので、現役選手たちがその様子を見て、師匠を引き受けてくれることもあります。
また、仮に師匠を持つことができたとしても、師匠である選手自身もレースがあるため、付きっきりで面倒を見ることはなかなか難しい。そういった部分でも、GTRは機能していると思います」
養成所合格に向けた戦略
GTRに在籍する訓練生たちの最大の目標は、日本競輪選手養成所への合格。
そのための具体的な指標も、明確に設定されています。
青木さん「毎年、養成所入所試験の合格者平均成績が発表されています。今は、男子に関しては1kmタイムトライアルで1分10秒台前半、ハロン(200m)のタイムは11秒5、という基準を目指しています。その目標を達成するために、日々タイムを計測しながら訓練しています。

技能試験の一次試験は、例年、前橋グリーンドームと同じ室内バンクの小倉競輪場で行われます。周長など違いはもちろんありますが、同じ室内バンクで日々タイムを計測して試験に挑める、というのは強みだと思います」

また、一次試験に合格した訓練生には面接のリハーサルも実施するなど、総合的なサポート体制も整っています。
去年3月に入所した田沼龍弥さんは、そんなGTRのメリットをフルに生かして、129回生の入所試験に見事合格を果たしました。
田沼さん「同じドームの前橋で走っていたので、一次試験は得意意識を持って挑むことができました。面接の指導もしていただけたのも、強みになりました。
入所試験に合格することはできましたが、それはスタートラインに立っただけ。入所に向けてもっと力をつけていかなければならないこの期間にもしっかりトレーニングを積めるのも、本当にありがたいです」

129回生として養成所への入所を決めた田沼龍弥さん
時には苦しい決断も
GTRへの在籍は、最長3年・試験2回までと制限を設けられているそう。時には、厳しい決断を迫られることもあると言います。
青木さん「もし願い叶わず試験に落ちてしまった場合は、次年度に向けて面談を行います。収入がない中で、無理に続けても本人のためにならないこともある。合格への道がなかなか見えない場合には、違う道もある、と伝えることもあります。
競輪の世界は、年々賞金もあがっていますし、夢があります。でも、保証はありません。必死の思いで競輪選手になったとしても、なかなか勝つことができないということだってあり得る。だからこそ、GTRでの活動には覚悟を求めています」

人生変えたい、という強い思いがあれば
青木さん「一方で、私は競輪選手になってよかったと今でも思っていますし、まったく後悔はありません。選手になって頑張りたい、人生変えたい、という思いがあれば、GTRでは思いっきり挑戦することができます」

「競輪選手になりたい、人生を変えたい」——その強い気持ちがある人なら、経験の有無に関係なく挑戦できる。GTRは、そんな熱意を持つ人々の挑戦を支える場所です。
全国には、GTRのような団体が点在しているほか、各選手会でも競輪選手になるためのサポートが行われています。気になった方は、ぜひ調べてみてください。
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