118期として、2020年にデビューした永塚祐子選手。
自転車の競技経験はなく、大学卒業後は約10年間企業に勤めた後に日本競輪選手養成所に入所したという異色の経歴でも知られています。

念願のプロの舞台へ。キャリアチェンジを経て克服した、自身が抱えていたコンプレックスとは?

前後編でお届けするインタビューの後編です。

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昭和生まれなので(笑)

Q:実際に弟子入りしてからは、どのような練習をしていたのでしょうか?

とにかく、ずっとバンクで乗っていました。
師匠からも、年齢のことも考えて短期集中型で行こうと言ってもらえて、いろいろな工程を省いて、1か月も経たずに駆け下ろしの練習に混ざってましたね。

Q:怖いとか、キツいとかはなかったですか?

怖さは全然ありませんでした。体力的にも、直前でバスケを本格的にやっていたこともあって余裕があった。もちろんキツかったですけど、昭和生まれなので(笑)、スポーツで追い込むということには慣れていました。

Q:結果的に、期限までに目標タイムを出すことができた。

はい。最初はなかなか自転車という乗り物を乗りこなせず、力を出しきれない感じだったのですが、ポジションの取り方やペダリングなど、タイムを出すための技術を教えてもらい目標タイムを切ることができました。

企業で培った“考える力”

Q:目標タイムも含めて、技能試験への準備に注力されていたのだと思いますが、適性試験での入所は考えなかったですか?

養成所に入ってから、そしてデビューしてからのことを考えたら、絶対に技能試験の方がいいと思っていました。
それに、30歳を過ぎていて、プロスポーツをやっていたわけでもないので、そもそも適性試験では合格できないだろうと。

Q:お話を伺っていると、目標の立て方や考え方が非常にスッキリしているなと感じます。これは、社会人経験が役立っているのでしょうか?

間違いなくそうだと思います。同じ時期に競輪選手を目指す若い子たちと比べて、自分が秀でているところは“考える力”だと思っていました。ただ考えるだけではなく、“経験値から来る考える力”。会社では、すごく頭のいい人に囲まれて、必死に生きてきたので(笑)。

自分のために時間を費やさないといけない

Q:競技経験がない経歴での養成所の訓練や、年齢が離れている候補生たちとの生活に苦しさはなかったですか?

競技経験がある候補生に比べたら、上バンクの使い方が上手くなかったりといった部分は感じましたが、周回練習では負けなかったです。目標タイムを切った後も記録は伸ばし続けていましたし、男子選手と練習を積んでいたのも大きかったと思います。

生活に関しては、高卒で入所した子と比べると15個も年が離れているので、やはり難しい部分もありました。

でも、衣食住をすべてまかなってもらえて、自分と向き合うことだけができる養成所のような環境は他にはない。いまだに戻りたいくらいです。
もちろん集団生活なので他人に気を配って生活するのも大切ですが、これだけの環境を与えてもらっているからには、自分のために時間を費やさないといけない、と思っていました。

自分を好きになるきっかけを与えてもらいました

Q:その成果として在校成績1位、ゴールデンキャップも2度獲得と素晴らしい成績を残して卒業、2021年にプロとしてデビューを果たしました。

自分と、自転車と向き合い続けた養成所での10ヶ月で、記録も大きく伸ばすことができました。

じつは、昔から太ももが太いのがコンプレックスだったんです。でも、競輪選手になればなにも言われない。
プロになったことで、自分を好きになるきっかけを与えてもらったと思います。

Q:現在、元勤務先である三菱地所レジデンスがスポンサーとしてつかれているそうですね。

はい。2021年からスポンサーについていただいています。当時、落車で5箇所骨折して休養していた時期だったのですが、骨折と引き換えに夢が叶ったような気持ちでした(笑)。

企業に勤めたことで、考え方を含め人間として成長することができたと思います。私のホームバンクである川崎には、ほかにも企業勤めから競輪選手になった選手がたくさんいます。いきなりプロスポーツの世界に飛び込むのではなく、社会経験をするというのも大事だと思いますね。

1ミリも後悔してない

Q:大胆なキャリアチェンジを経て、人生は変わりましたか?

一変しましたね。余裕もできましたし、会社にいた30代前半の頃より、今の方が若いとよく言われます。思った通りの成績をあげられているわけではないですし、何度も骨折していますが、今でも1ミリも後悔してない、と自信を持って言い切れます。好きなことを見つけるのも難しいこの時代に、好きなことで生活できているのはすごいことだなと思います。

Q:一歩を踏み出せないっていう人はたくさんいると思います。そういう方に向けてメッセージはありますか?

動かないとなにも変わらない、考えていてもなにも変わらない、と思います。
もし失敗しても、死ぬわけじゃない。ただ、“怖い”というだけです。やらない後悔よりやる後悔という言葉もありますが、先に違う未来が見えると思ったら、まず動いてみるべきだと思います。