【インタビュー】神山雄一郎 新所長「この場所で、強い心を育ててほしい」

2024年12月、長年にわたる現役生活を終え、2025年4月より新たに就任した日本競輪選手養成所・神山雄一郎所長。
競輪界のレジェンドが、かつて自身が過ごした場所でいま何を思い、何を目指しているのか。
就任の経緯や現在の心境、候補生たちへの思いをうかがいました。
瀧澤所長の後を継ぐ、ということに運命を感じた
Q:あらためて、所長就任が決まるまでの経緯を教えてください。
じつは以前から、何度かそういったお話をいただいていました。安田理事長(一般社団法人日本競輪選手会理事長・安田光義)が同期ということもあり、「お前しかいない」と言ってくださっていたのですが、自分としては競輪選手として頑張りたい、やれるはずだ、という気持ちがありました。
ただ、2024年6月にA級降格が決まり、そこから少し気持ちに揺らぎが出てきて、今後の自分のキャリアと向き合うようになりました。
その後、木戸会長(公益財団法人JKA会長・木戸寛)からも「お願いしたい」とお話をいただき、真剣に考えました。大きかったのは、瀧澤所長(瀧澤正光前所長)が、ご定年により2025年3月で退任されると知ったことです。それが決定打となりました。

Q:瀧澤所長の後を継ぐ、ということに意味を感じたということでしょうか?
現役時代、デビューしたときからずっと瀧澤さんを目標に頑張っていました。その瀧澤さんが退任され、今度は所長として再び瀧澤さんを目標に頑張ることができる、ということに運命を感じました。
Q:引退直後でもあり、大変な決断だったのではないかと思います。
気持ちの整理も準備も足りない、という不安はありましたし、正直に言うと「少しゆっくりしたい」という気持ちもありました(笑)。

木戸会長に自分の思いを伝えたところ、「神山さんが引き受けてくれるなら、1年でも2年でも待ちます」と言ってくださった。でもそのときに、「現役で走ってきた人がすぐ所長になることが、候補生にとってもいちばん良い」とも言われ、それが心に響きました。
入所式の練習で、心が通じ合ったと感じた
Q:実際に4月1日に就任されてから、なにか心境の変化などはありましたか?
ほとんどの候補生はまだ入所して間もないため、十分に会話をする機会は持てていないのが現状です。
ただ、入所式前日に行われたリハーサルで、名前を呼ばれた候補生たちの返事が小さく、本気度が感じられませんでした。
私は壇上に立ちながら、名前が呼ばれるたびに心の中で「1年間頑張れ」とそれぞれに対して念じていました。だからこそ、その思いに応えるような気持ちで返事をしてほしいと伝えました。
その結果、返事の声は見違えるほど力強くなりました。わずかな出来事かもしれませんが、心が通じ合ったと感じられる瞬間でした。まだ始まったばかりですが、良い関係が築けそうだという手応えを感じています。

「心」が第一
Q:候補生たちに、どんな選手になってほしいと考えていますか?
まずは「心」です。脚力はもちろん必要ですが、私は心が第一だと思っています。心が強ければ練習もできるし、結果的に脚力もついてくる。だから、養成所は心を育てる場所でありたいと考えています。
Q:養成所として、現代の競輪選手を育成していくにあたって感じる課題はありますか?
まず私個人の資質として、怒るのが得意ではない、というのは課題のひとつかもしれません。自分が苦しい練習をしてきた分、たとえば「ローラーで1分もがく」という練習を見ているとリアルにその辛さがわかってしまうので、「頑張れ」としか言えなくなってしまいます(笑)。
私が現役の時は、レースで着順が悪くても、「そのなかで良かったこと」を考えるように意識していました。同じように、候補生たちのことを良く見て、「今日のここは良かった」と、たとえ細かいことでも伝えてあげたいと思っています。そうすることで前向きになれるし、気持ちよく練習に臨むことができる。

所長という立場で、すべての候補生に直接指導することはできないかもしれませんが、「神山所長のもとで良かった」と思ってくれるように、日々の声かけや姿勢を大切にしていきたいです。
大切なのは、候補生たちが強くなること
Q:現役選手として長く活躍してきた神山所長だからこその考え方のように感じます。
それからもう一点、これはどんな場所でも起きていることだと思いますが、多くの人が関わる組織では、どうしてもリスクを避け、「なあなあ」になってしまう側面があると思います。
あくまで大切なのは、候補生たちが強くなること。候補生たちのためになることであれば、恐れることなく、いろいろなことに取り組んでいきたいと考えています。
幸いにして、私は所長に就任したばかり。それを逆に武器にして、万が一なおざりになってしまっているようなことがあれば、積極的に発言していきたいです。

Q:あらためて、これからの抱負をお聞かせください。
養成所は、1年間で自分を大きく変えることができる場所です。私自身、この場所で過ごす時間の大切さを知っています。
候補生たちには、「ここにいる人はライバルであり、仲間。お互いに教え合って、切磋琢磨してみんなで強くなろう」と話しました。熱くなりすぎかもしれませんが(笑)、僕の思いと経験を、少しでも候補生に伝えていきたいです。
私もまだ所長として走り出したばかりですが、現候補生にとっても、これからこの場所を目指してやってくる方にとっても、有意義な時間を過ごせる場所にしていけたらと思います。