112期として2017年にデビューし、結婚や出産を経て活躍を続ける大久保花梨選手。
競輪との出会い、産休から戦いの舞台に戻るまでのストーリー、そして母になった今だからこそ感じる競輪の魅力を伺いました。

前後編でお届けするインタビューの後編です。

前編はこちら

心と体が競輪の刺激を欲していた

Q:産休に入られる前から、復帰すること前提に考えていたのですか?

はい。最初から、絶対に競輪の舞台に戻るんだという気持ちでした。

3歳くらいから、ずっとスポーツをしてきた人生だったので、1年も運動しないというのは産休中が初めてでした。そうなると暇すぎて、体を動かしたくてうずうずしていましたね。

Q:とはいえ、子育てしながら選手として活動するのはかなりハードですよね。

そうですね。でも、産休中にやっぱり競輪の放送を観てしまうんですよ。大きいレースなんかは特に。そうなると、めちゃくちゃいいな、私も乗りたいって。とにかく、刺激や緊張感を欲していました。

出産3ヶ月後にはトレーニング再開

Q:2023年1月に出産され、復帰までがとても早かったですよね?

8月には復帰しましたね。4月から子供を保育園に預けはじめたのですが、産後太りを解消したかったこともあり、4月から練習を再開しました。

心肺機能を戻すために歩いたり、走るところから始めて、自転車に乗って、と段階を踏んでトレーニングを。
本当は出産1年後の復帰を目指していたのですが、師匠の後押しもあり、実際は8月には復帰を果たしました。

Q:自分の中でも、十分復帰できるという手応えは感じていましたか?

万全ではなかったですが、それなりに走れるのかなという感覚はありました。
逆に休んだことで、必要ない筋肉が取れたり、力んでいた筋肉がリラックスしたという利点もあったのかもしれません。

先輩の活躍が指標に

Q:いわゆる“産休制度”、出産月の期を含めて3期間の出場が猶予される、という制度はもともとご存知でしたか?

長澤彩選手や遥山夕貴選手など、出産後も活躍されている先輩方が何人もいますし、制度の存在自体は知っていました。ただ、たとえばどんな書類が必要なのかとかは全然知らなかったので、その時に先輩に聞きました。「あ、そんな証明書が必要になるんだ」とか、もうイチから教えてもらって(笑)。

先輩方のおかげで、復帰への道筋が立てやすかったです。

Q:実際に、産休制度を利用してどうでしたか?

やっぱり、お金の面は大変でした。個人事業主である競輪選手ならではの難しさというか。税金は前年の収入が基準になりますからね。なので、あらかじめ貯金をしておいた方がいいと思います(笑)。

ただ、だんだんと女性が頑張りやすい環境になっていると感じています。もちろん、今後もっとガールズ選手が増えていくにあたっては、改善できる部分もあるとは思います。

子どもの存在があるから頑張れる

Q:お子さんが生まれてから、選手として変化した部分はありますか?

表現が難しいですが、「着順を問わず、走れていることがすごい」という感覚もあるんです。いい意味での開き直りが生まれたと感じています。
一方で、子育てを考えたらお金を稼ぎたい。子供の存在は、大きなモチベーションになっています。

Q:育児との両立は大変ではないですか?

開催中をはじめ、夫に1人で子供を見てもらわないといけないタイミングも多いので、最初は不安もありました。“リハーサル”じゃないですけど、私の監視の中で家事をやってもらったりもしましたね(笑)。でも、とても“令和の男”なので(笑)、今は安心して任せられています。

Q:開催中、お子様のことが頭にちらついたりとかは?

これが、全然よぎらないんです。子供も、もうちょっと寂しがるかなと思ったのですがそんなこともなく(笑)。協力しあいながら、上手くできていると思います。

Q:とはいえ、ご出産前よりも、練習に使える時間は大幅に減ったのでは?

単純に送り迎えの時間があったりもしますし、たしかに子育てに必要な時間は多いとは思います。ただ、自分に使える時間が限られている分、その中で何ができるのかをしっかりと考えるようになりました。短時間で集中してできるメニューを考え、日々トレーニングに励んでいます。

難しいなと感じるのは体調の部分ですね。仕方ない部分ではありますが、子供が保育園で胃腸炎などのウイルスをもらってくることが多くて……元々体は丈夫なタイプなのですが、体調を崩すことが増えたのは難点です。

競輪選手はむしろ子育てに有利!?

Q:逆に、子育てする上で競輪選手でよかったと思う点はありますか?

普通の会社勤めの場合、子育てのために働き方を調整することで、周囲に迷惑がかかってしまうケースもあると思うんです。
でも競輪選手は練習時間も自分で決められますし、何よりも、迷惑がかかるのは自分だけなんです。それは精神的にも大きいですよね。

Q:たしかに、そういった部分では子育てに関してはメリット大きそうですね。

本当に、超良いと思いますよ(笑)。あくまで、子供がいちばん、という気持ちで競輪に励んでいます。
お金も稼げますし、子供との時間もたくさん作れる。プロスポーツ選手になりたい女性にとって、競輪選手はとてもおすすめです。