2023年にデビュー、2025年9月現在はA級1班として奮闘する石田典大選手。
日本競輪選手養成所に入所してすぐの第1回記録会は、「スピード、持久力共に劣る」という評価である青帽評価でした。

「嘘だろ」という結果に終わった第1回記録会からどのような想いで養成所生活を送り、そしてプロの世界へと羽ばたいたのか。

『始まりは青帽』インタビューの後編です。

▼インタビュー前編はこちら

自分を信じて練習を重ねる日々

Q:青帽に終わった第1回記録会の後、なにか特別な対策はしましたか?

ハロンと1000mに関しては元々タイムが出せていたこともあり、しっかりと練習していれば大丈夫だろうと信じていました。
問題になるのは3000m。白帽の基準まで10秒近く足りなかったので、中長距離が得意な人に話を聞いて自主練しました。

Q:その成果か、2回目の記録会では見事に白帽を獲得しています。

全部ギリギリでした。1000mは1分10秒04、3000mが3分57秒34。ハロンもゴールデンキャップのタイムにコンマ2秒ほど足りない11秒38。
納得のいくタイムではなかったですが、白帽という結果には安心しました。

Q:話が逸れてしまって申し訳ないのですが、スラスラと当時のタイムが出てきますね。この取材のために予習いただいたのでしょうか?

いえ、そんなことないです(笑)。数字を覚えるのは得意なので(笑)。

青から白へ。最後の色は?

Q:青→白と来てリベンジを誓った3回目の記録回。右肩上がりの結果なら美しいのですが……

赤でしたね。冬場は400mでタイムが出ない傾向にありますし、実力通りの結果だったと思います。

Q:競走で強ければ、というお話もされていましたが、競走訓練にはどのように取り組んでいましたか?

競走の経験がなかったので、自分がどんな戦い方が得意で、何が苦手なのかということを判断するためのものにしようと思っていました。
とはいえ異常なくらい勝てなくて、最終的な在校成績は55位。1着が1回あるのですが、どうやって勝ち取ったのか記憶にないくらいです。

Q:結果よりも、内容を求めていた?

基本的にはそういう気持ちで挑んでいたのですが、勝ちに徹してみようと試した時にも5着、6着という結果が続き、「自分はどれだけ弱いんだ」「プロになってもやっていけないのでは」と本気で絶望した時期もありました。

デビューまではまだ時間があるし練習していれば大丈夫なはず、と切り替えて頑張っていましたが、あの時の絶望感は今でも印象に残っています。

“1年半でクビ”も覚悟した

Q:記録会でも成績も含めて、自分の実力を突きつけられるような養成所時代にもなった?

そうですね。正直に言うと、デビュー後は最短の1年半でクビになってしまうかも、と覚悟していました。

卒業後はルーキーシリーズで失格となってしまった影響で同期たちから遅れて本デビューとなったのですが、強いと思っていた同期が負ける姿を見て、すごく不安になりました。

Q:そんな中でも、先輩選手との初対戦となった開催では初日・2日目と1着となり、決勝でも3着という結果を残しています。

大先輩である浦山(一栄/東京・72期)と一緒だったのですが、「距離は考えずに思いっきり行って、負けたらまた頑張ればいい」と声をかけてもらい、いい意味で開き直ることができました。
結果的に連勝で、決勝でも打鐘前から全開で踏んで、最終の4コーナーまで先頭にいることができた。自分に合った戦い方というのを知ることができたのは大きかったです。

Q:2024年6月には3場所連続完全優勝を果たしてA級2班に特昇、現在はA級1班まで上がりました。自分としても力をつけてきている感触はありますか?

先行して自分の形を作れれば大敗はない、と思うことができています。初めて優勝した時、練習でも出したことがないような上がりタイムを出すことができたり、成功体験が積めたことが自信に繋がっていると思います。

デビュー当初は「S級」を自分ごととして考えらえていませんでした。もちろん、もっともっと強くならなくてはと感じますが、今は現実的にS級を目指せています。

養成所で苦しんだから今の強さがある

Q:あらためて、苦難が多かった養成所生活を振り返ってみてどのように感じますか?

先ほどのとおり、養成所時代は本気でヤバいと思うタイミングが何度もありました。そのおかげで、あの時よりもメンタルが落ちることはない、と思って日々のトレーニングに励むことができています。
選手になってから精神的にドン底に落ちたら、取り返しのつかない状態になってしまう可能性もあったかもしれない。色々なことを試せる養成所時代に、メンタルの波を経験できたのは良かったですね。

Q:そう考えると、青帽を取った経験も悪くないと思えますか?

悔しかったですけど、それも含めて経験。青帽万歳ですよ(笑)。

Q:同じ境遇の候補生にメッセージをお願いします。

言ってしまえば、ただの色。金を取ったらすごい、青帽を取ったら頑張れ、でしかないと思います。
それぞれに目標があると思うので、今ではなく将来に向けて頑張って欲しいですね。