競輪選手を目指す男たちを描く熱血青春競輪漫画『MOGAKU』(週刊少年チャンピオンで連載中)の作者・グミマルさん(作画・グミさん、原作・マルさんの2人)が、注目の競輪選手と対談する特別企画。2回目のゲストは、山口拳矢選手だ。競輪界最高峰のKEIRINグランプリを2回制した山口幸二さんを父に持ち、祖父、叔父、兄も競輪選手という競輪一家に育った。2023年には賞金ランキング4位の1億4000万円以上を獲得した実力派。「GⅠ(グランプリに次ぐ上位の格付けの大会)に勝ったら車を買おうと思っていて、2023年に日本選手権で優勝して、ランボルギーニSUVを買いました。勝つこともうれしいですけれど、実力次第で稼げることが、原動力の一つになっています」と山口選手。山口選手ほどでなくとも、男性競輪選手の平均年収は1500万円余。努力の結果が目に見える形ですぐ得られるのも、この競技の魅力になっている。

グミ:山口さんはどうして競輪選手になろうと思ったのですか?

山口:父も叔父も選手なので、早くから競輪選手を目指していたと思われがちですが、そうではありません。高校までサッカーをやっていて、入学した日本大学に自転車部があることも知りませんでした。大学2年生のころかな、まわりが就職を意識し始めてきて、自分が何をできるのだろうかと考えました。そのときに身近に競輪があったという感じです。兄(山口聖矢選手)が先に目指していたというのもあります。それで大学3年の途中で退学して、養成所に入りました。

競輪選手を目指した背景を語る山口拳矢選手

マル:養成所で思い出に残っていることは何かありますか?

山口:養成所が厳しいということは分かっていました。とにかく1年我慢して、選手になればあとは自由だと自分に言い聞かせていましたね。僕は朝が苦手なんですが、毎朝6時30分起きで、点呼があるんです。それが大変でしたね。

マル:自主練習などどうしていましたか?

山口:僕はやるときはやるのですが、どっちかというとサボり癖がある方なんです。養成所にいたときは、自主練習って1回くらいしかしていないと思います。ただし、肝心なのは、養成所を出てから。出たら自由ですから、練習をしなくても誰からも何も言われません。その中でどれだけ自分を追い詰めることができるか、ということが大事だと思います。僕はサボり癖があるので、とにかくルーティーンとして練習を自分に義務づけました。ただ、養成所の約1年間は確かにきつかったけれど、人生の中で1番濃い1年だったと思います。今でも同期とは仲が良いですよ。

マル:山口選手は、2023年に27歳でGⅠの日本選手権を獲得するなど、若くして活躍していますが、それだけがんばれるのには、何がモチベーションになっていますか?

山口:嫌らしい言い方になるかもしれませんが、やはりお金が1番かな。実力次第で、一般の会社員では得られない収入を稼ぐことができます。勝つことも確かにうれしいのですが、勝てばそれだけ多くの賞金を得られる。次もがんばろう、という原動力になっているのは事実です。もしGⅠに勝ったら車を買おうと決めていて、そのためにがんばった、というのもあります。日本選手権で優勝してランボルギーニのSUVを買いました。

「MOGAKU」を読んだことがあると語る山口選手

マル:父の幸二選手も名選手でした。今は評論家として活躍していますが、お父さんからアドバイスしてもらうことなどありますか?

山口:父の方から話してくることはありませんが、こちらから聞くと、いろいろと教えてくれます。父の意見は、確かに的を射ていて、なるほどとすぐ理解できます。父は目標でもあり、父がGⅠを30歳で獲得したので、30歳までに取りたいと思っていましたし、グランプリを2回も獲得しているので、なんとかそれ以上は勝ちたいと思っています。評論家として父が僕にインタビューしてくるときは、少し気恥ずかしい感じがして、敬語を使ってしまいます。父は確かに、大きな目標ですが、僕が実際にトップ選手たちと戦うようになってからは、さらに背中が遠くなった感じがしています。グランプリを実際に走って、自分は何もできずに終わってしまった。父がこの厳しい戦いであるグランプリを2回も獲得しているのか、と思うと、自分には簡単ではないな、と身に染みて思っています。

マル:試合のときには、戦略をあれこれと練っているタイプですか? それともそんなことは考えずに挑むタイプですか?

山口:養成所に入る前はレースなどしたことがありませんでした。だから、入ってからは、レースでどうしたら良いのか、ノートにいろんな戦法を書いて研究していました。デビューしてからもしばらくは、対戦相手となる選手の特徴や癖などをノートにメモをして、前の夜に、ああしよう、こうしようと考えていました。今は、だいたいメンバーは決まっていますので、そんなことはしていませんが。新人のころは、まだ試合に慣れていないため、ベテランの選手から狙われやすいし、競り合いの中で倒されてしまうこともありました。

競輪の魅力やレースに向けた準備を山口選手へ質問する原作・マルさん

マル:レースの最中は、頭の中でいろんなことを考えているのでしょうか。それとも何も考えずに集中しているのでしょうか。

山口:レース中、聞こえてくるのは車輪が回る音だけです。その中で、こんな一瞬にこれほどいろんなことを考えるのか、というくらいたくさんのこと、必要な情報について考えています。状況の変化に応じてどのように動くのか、一瞬で決まるのでレース中は気を抜くことはできません。

マル:強い競輪選手になるには、どんな人が向いていると思いますか?

山口:まず勝負が好きな人。絶対に勝ちたいという気持ちが強い人ですね。優しすぎてはダメです。僕の養成所の同期には、インターハイで優勝したり、インカレのチャンピオンだったり、才能ある人がたくさんいました。だけど才能だけでは勝てないのが競輪の面白いところでもあります。やっぱり練習する人が強くなるんですね。それから、パワーがすごい人はたくさんいます。でも自転車ってパワーだけでは前に進まないんです。足だけでなく、足の動きに合わせて上半身も連動している。僕はパワーはそれほどでもないので、いかに効率良く走れるか、ということを常に考えています。

マル:私たちの作品『MOGAKU』では、実際の競輪選手から着想を得ているキャラクターもあります。山口選手の「俺は俺」という、ぶれないで自分を貫く感じ。金髪にするなど髪型をしょっちゅう変えているところが私たちも大好きです。マクリ(レース終盤に、後方から一気に加速して追い抜く戦法)最強なところなどは、作品の中の「夜叉坊」にも少し投影しています。

「MOGAKU」に登場する辻夜叉坊

グミ:ところで山口選手は普段の息抜きにはどんなことをしていますか?

山口:服、特にアメカジ(アメリカンカジュアル)が好き。休みの日には買い物をしに渋谷や原宿を1周しています。あと、好きなのはマンガ。1週間くらいレースで地方に行くときなど、マンガを100冊くらい段ボールに詰めて持って行きます。レースのときは直前までリラックスしたいので、開始10分前くらいまでマンガを読んでいます。試合前の様子は人それぞれですね。イヤホンをして自分の世界に入り込んでいる人もいるし、ゲンをかついで塩を置いている人もいます。

マル:山口選手の今の目標を教えてください。

山口:1回出場しましたが、年末に開催されるグランプリはやっぱり競輪最高峰の舞台。他のレースと全く違う特別の大会でした。もう一度グランプリに出て、何とか結果を残したいというのが、当面の目標です。そのためには自分の中でできる戦法を増やさなくてはいけない、と思っています。

マル:競輪を生で見るとすごい迫力で圧倒されます。競輪というと、ギャンブルのイメージが強いわけですが、私は金を賭けるだけではない魅力がたくさんあると思っていて、マンガでそれを少しでも伝えられたらと考えています。選手たちは落車して大けがするかもしれないという緊張感の中で全力を尽くして戦っている。いろんな思いを胸にして戦う選手たちへのリスペクトを込めて描いています。山口選手にとって、競輪はどんなところが魅力だと思いますか?

山口:やっぱり、生でレースを見てほしいですね。こんなに迫力があるのか、こんなに速いのか、こんなに激しいのか、と実感できると思います。選手に向いているのは、わがままな人、エゴが強い人かな。勝つとお金も入るし、誘惑も多くなる。その中でやるかやらないか判断するのは自分だけ。勝つために、どれだけ本気で自分と向き合うか、その本気度が常に試されている。僕も背中は遠くなっていますが、父を超えることを目指して全力を尽くしていきたいと考えています。

<対談プロフィール>

■山口拳矢
岐阜支部所属。29歳。117期。2025年獲得賞金(11月6日現在)55,517,348円
デビュー3年目で初のGⅠタイトルを獲得。2023年には「KEIRINグランプリ」に出場。
2021第37回共同通信社杯(GⅡ) 優勝 2023第77回日本選手権競輪(GⅠ) 優勝
優秀新人選手賞(2021年)優秀選手賞(2023年)

■グミマル(作画・グミさん、原作・マルさん)
週刊少年チャンピオン連載中「MOGAKU」作者グミマル。原作・マル、作画・グミ。秋田書店主催の第16回ネクストチャンピオン新人漫画賞にて新人大賞受賞。「MOGAKU」単行本既刊6巻。
グミとマルは群馬県出身で、小学校・中学校の同級生コンビ。

「MOGAKU」とは――
秋田書店が発行する「週刊少年チャンピオン」で連載中の熱血青春競輪漫画。
父の病死、母の交通事故という家族の危機に新聞配達のバイトで家計を支えていた主人公の一成が、競輪の世界を知り、家族のため競輪学校で個性豊かなライバルたちと奮闘する。

【試し読み】はこちら(チャンピオンクロスのページに遷移します)
https://championcross.jp/series/12f7a77754ba3

PHOTO GALLARY